bochibochitaimのブログ

星空のような日常のひとコマを。

足首を骨折しました⑱最終回

翌日から、私はバイクにまたがっていた。久しぶりにエンジンをかけると、ブルルンとエンジンがうなり始めた。2ヶ月も経っていたのに相変わらずの回転音とオイルの匂いに心が高鳴る。『待たせたね。』そうバイクに話しかけ、しばらくエンジンを回しヘルメットを被り手袋をする。

松葉杖で歩いていた道とは反対方向にハンドルを切る。久しぶりの運転に背中に羽でもついているかのような感覚に全身鳥肌が立った。

今この時間、ちょうどバス停にバスが着く頃だ。『運転手さんや、お婆さんはどうしているだろうか。私が突然バスに乗らなくなって、心配しているのだろうか。』と、ふとバイクに乗っているとあっという間に職場へ着いた。あんなにも時間のかかる松葉杖の通勤の半分だ。

松葉杖だった時の気持ちを忘れない。

いつもは、絶対に見れない風景を。

時間がゆっくりと過ぎていくことを。

生活の一つ一つを丁寧に行うことを。

周りの人にもらったたくさんの愛や親切に感謝を。

人生には予期せぬことが起こるという事を。

はじめは『どうしよう。』しか出てこなかった自分が、時間が経つと共に『どうやれば良いか。』と考えるように変わっていった事を。

意外にも不自由さを楽しめる自分がいたことにびっくりした事を。

きっとこの骨折がなければ、『人に迷惑をかけなければなんでもやっていいんだ。』と、どこか他人事のような傲慢さのままでいたに違いない。この気づきは、私自身を知る良いきっかけとなった。

朝も帰りも、バイクに乗りながら今もどこかで毎日乗ったあのバスを探している自分がいる。